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期待値とは?不確実な未来を測る経済学の視点

サマリー:
期待値(Expected Value)とは何か、なぜ「価値×確率」で未来を測ることが重要なのかを解説。不確実な選択に悩むあなたに向けて、合理的な判断を支える3つの問いを提示します。【滞在時間4分】

キーワード:期待値、意思決定、確率、リスク、経済学、ビジネス判断


高校を卒業して就職するか、大学に進学するか?転職するか、今の仕事に集中するか?貯金をするか、投資をするか?

人生の分岐点では、常に「未来の成果」が話題になります。しかし、「どれだけの価値が生まれるのか」は、やってみなければわかりません。だからこそ、私たちは「直感」や「なんとなく」で選択してしまいます。選択にはいつも不確実性がつきまとうのです。

でも、だからといって、すべてを「運まかせ」にしてしまうのは、あまりにも危ういです。限られた時間、限られたお金、限られたエネルギー。資源の制約の中で、どの選択肢がより良い未来をもたらしてくれるのか。その見極めが必要です。

その問いに答えるために、私たちには判断の基準が必要です。そこで登場するのが「期待値(Expected Value)」です。

どの選択が、いちばん期待できるのか?

この記事では、期待値とは何かを考えていきます。なぜ「価値」と「確率」の両方を見ることが重要なのか。そして日々の判断にどう活かせるのかを、一緒に探っていきましょう。不確実だからこそ、判断の基準が必要です。意思決定を迫られるあなたにこそ、知っておいてほしい視点です。


1. 期待値とは何か:価値と確率の掛け算

意思決定をするには、手に入れられる「価値」そのものに目を向けることが必要です。しかし、不確実である以上、「得られる価値の大きさ」だけでは不十分です。「それが現実になる確率」も考慮しなければなりません。このバランスを掛け合わせるのが、「期待値」という考え方です。

期待値は以下の数式で表すことができます。

期待値 = 得られる価値 × 起こる確率

この「価値×確率」という考え方は、何もギャンブルの話ではありません。具体的数値に落とし込むことができなくても、考え方そのものは、日々のあらゆる場面でも応用可能です。

  • 起業すれば、年収1,000万円になるかもしれない
  • 高級フレンチを食べたら、大満足できるかもしれない
  • 毎朝ランニングすれば、健康になれるかもしれない

それが本当に実現するかどうかはわからないからこそ、「合理的な選択」を見極めるために必要なのが、期待値という視点です。選択の意義は「価値」の大きさだけでは決まりません。「どれくらいの確率で実現しそうか」を合わせて考える。そうすることで、初めて「期待できる選択」なのかどうかが見えてきます。

📖 価値の見極め方機会費用とは?選ばなかったものの価値を見極める


2. 宝くじで理解する期待値

例えば、宝くじの話で考えてみましょう。1枚300円の宝くじを買って、当たれば1億円もらえるとします。この時に思い描くのは「億万長者になれるかも!」という未来です。でも、その未来が「実際に起こる確率」はとても低い。1千万人に1人、という世界です。

得られる価値は大きいけれど、可能性は限りなく小さい。この場合の期待値を計算してみましょう。

100,000,000円 × (1/10,000,000) = 10円

つまり、「1枚300円で買った宝くじの期待値は10円しかない」ということになります。宝くじに夢を見たい気持ちはわかりますが、経済学的には「割に合わない賭け」と見なされるわけです。

期待値の構造

graph LR
    A[選択<br/>━━━━━━<br/>宝くじを買う<br/>300円]
    B[結果A<br/>━━━━━━<br/>100,000,000円<br/>確率: 0.00001%]
    C[結果B<br/>━━━━━━<br/>0円<br/>確率: 99.99999%]
    D[期待値<br/>━━━━━━<br/>10円]

    A --> B
    A --> C
    B -.->|価値×確率| D
    C -.->|価値×確率| D

    style A fill:#fff9cc,stroke:#ff9900,stroke-width:3px
    style B fill:#ccffcc,stroke:#00cc00,stroke-width:2px
    style C fill:#ffcccc,stroke:#cc0000,stroke-width:2px
    style D fill:#cce5ff,stroke:#0066cc,stroke-width:3px

解説

  • 得られる価値:1億円(大きい)
  • 起こる確率:1/1000万(極めて小さい)
  • 期待値:10円(300円の投資に対して割に合わない)

この構造は、日常のあらゆる選択にも当てはまります。「価値が大きい」だけで飛びつくのではなく、「それが実現する確率」も合わせて考える。それが期待値という視点の本質です。


3. 未来はひとつじゃない

期待値という考え方は、「未来はひとつではない」という前提から始まります。同じ選択をしても、状況や運によって、結果は異なる可能性があります。

例えば、大学に進学するという選択を考えてみましょう。進学すれば、将来の収入を増やせるかもしれません。しかし、進学すれば「必ず月収30万円の仕事に就ける」と断言はできません。現実には、そんな未来が保証されているわけではないのです。

進学しても、自分に合った仕事に出会えるとは限りません。希望通りの高収入を得られるかもしれないし、そうでないかもしれない。つまり、未来は「ひとつ」ではないのです。

では、大学に進学した場合、将来の初任給がどのように分かれる可能性があるでしょうか。例えば、以下のような状況を想定してみましょう。

  • 月収30万円の仕事に就ける可能性:30%
  • 月収22万円の仕事に就ける可能性:70%

このとき、大学進学によって得られるであろう「月収の期待値」は次のように計算できます。

30万円 × 30% + 22万円 × 70% = 24.4万円

この24.4万円という数字は、未来を正確に言い当てるものではありません。しかし、「現実的な見積り」として合理性があると言えます。このように、期待値とは未来の可能性を数字で捉える方法です。

それは、確実な未来を見るためのものではありません。いくつかの「起こりうる未来」を並べ、それぞれの可能性に応じた「重み」を掛け合わせ、「もっともらしい未来」を想定するための手法です。

実際、私たちは普段の生活でも、直感的に似たような判断をしています。

  • 起業すれば、年収1,000万円かもしれないし、200万円かもしれない
  • 高級フレンチは、美味しいかもしれないし、そうでもないかもしれない
  • 毎朝ランニングすれば、健康になるかもしれないし、変わらないかもしれない

「かもしれない」ことをすべて計算に入れて選択を考える。それが期待値という視点の本質です。大事なのは、「得られる価値」と「起こる確率」の双方に目を向けることです。

  • どれくらいの価値が得られるのか
  • どれくらいの確率で起こるのか

この2つの問いを挟むことで、「なんとなくの選択」から「合理的な選択」へと変わっていきます。未来はいつだって不確かです。だからこそ、「もっとも期待できる未来」に託したい。そのための視点だと言えるかもしれません。


4. リスクも同じ構造:ハザードと確率

ここまで、期待できる未来について考えてきました。一方で、ネガティブな未来も同じ構造をしています。すなわち「損失」や「失敗」についても、まったく同じように考えることができます。それがリスク(Risk)という考え方です。

リスクという言葉は、普段の会話でもよく耳にします。

  • それ、リスク高くない?
  • もっとリスクを抑えて行動したい!
  • リスクヘッジしとかないとマズい…

でもこのリスクは、ただの「不安という感情」や「危険といった状態」を表しているのではありません。経済学では、リスクを次のように構造的に捉えます。

リスク = ハザード(損失の大きさ) × 起こる確率

ハザードとは、それが起こった場合に被る損失の大きさを言います。この数式は、期待値の考え方とまったく同じ構造をしています。違うのは、「得られる価値」ではなく「損失の大きさ」を扱っていることです。

飛行機事故:ハザードは極大、確率は極小

例えば、飛行機が墜落したら、命を落とすかもしれません。つまり、ハザードは「極めて大きい」。だからといって、飛行機に乗ることをためらうでしょうか。東京から札幌へ移動するなら、飛行機を選択する人が大半のはずです。それは、飛行機が墜落する確率を判断に組み込んでいるからです。

飛行機が墜落する確率は、1,000万回に1回程度とも言われます。つまり、確率は「極めて小さい」のです。

リスク = 極めて大きなハザード × 極めて小さい確率 = 極めて小さい

だから、私たちは飛行機に乗るという選択をするわけです。多少の不安があったとしても、リスクを潜在的に理解しているから、合理的だと判断できるのです。

コンビニの無駄遣い:ハザードは小、確率は大

ふらっと立ち寄ったコンビニで、余計なお菓子や飲み物をつい買ってしまうことはないでしょうか。毎日のように立ち寄り、ほぼ毎回買ってしまうなら、確率は「大きい」と言うことができます。

一方で、無駄遣いを減らすために「コンビニに絶対寄らないようにしよう!」と、確固たる決意を掲げる人もいます。しばらくコンビニを我慢できる人は立派だと思います。しかし、かなり少数なのではないでしょうか。それは1回の余計な出費がたったの数百円だからです。つまり、ハザードは「小さい」。もしコンビニに立ち寄ってしまったとして、発生する費用はほんのわずかなのです。

リスク = 小さいハザード × 大きい確率 = 小さい

コンビニに立ち寄ることを止められないのは、無意識のうちにリスクを理解し、合理的な判断をしているからです。仮に、コンビニで毎回数万円も出費してしまうとしたら、感じるリスクも大きくなり、コンビニに立ち寄ることをためらうはずです。

期待値とリスクは構造が同じです。

期待値 = 得られる価値 × 起こる確率

リスク = ハザード(損失の大きさ) × 起こる確率

この2つの視点をセットで持っておけば、「期待できる未来に期待する」と同時に、「備えるべき未来に備える」ことができます。

📖 詳しくは別記事でリスクとは何か?ハザードと確率で未来に備える


5. 3つの問いと2つの方法

価値があるように見える選択肢でも、それが実現する確率が小さければ、期待するに及ばない。逆に、確実に実現しそうな選択でも、その価値が小さければ、やはり選ぶ意味は薄い。だからこそ、判断すべきは「価値」か「確率」か二者択一ではありません。

期待値 = 得られる価値 × 起こる確率

その掛け合わせた結果が重要です。

期待値で考える3つの問い

意思決定の際に、自分に問いかけてみてください。

問い1:得られる価値はどれくらいか?

その選択から、どれだけの価値が生まれるのでしょうか。短期的な利益だけでなく、長期的な価値も見据えて考えてみましょう。

問い2:それが起こる確率はどれくらいか?

その未来は、どれくらいの確率で実現しそうでしょうか。楽観的すぎず、悲観的すぎず、現実的に見積もってみましょう。

問い3:掛け合わせた結果、期待できるか?

「価値」と「確率」を掛け合わせた結果、その選択は期待できるものでしょうか。他の選択肢と比較して、もっとも期待できる未来はどれでしょうか。

期待値を上げる2つの方法

期待値の視点は選択肢を評価するだけでなく、選択肢そのものを改善するときにも使えます。期待値をコントロールするための効果的な行動を起こせるということです。

例えば、あるプロジェクトを成功に導きたいなら、その期待値を上げる方法は2つに分解できます。

1. 得られる価値を大きくする(価値の向上)

プロジェクトの成果そのものを大きくする。より大きな市場を狙う、より高い付加価値を生み出す、など。

2. 成功する確率を高める(確率の向上)

プロジェクトが成功する可能性を高める。緻密な計画を練る、検証を重ねる、専門家の助言を得る、など。

ただ単に「プロジェクト成功」といった期待値しか見ていない文脈では、コミュニケーションにも齟齬が生じます。効果的な行動も起こせないでしょう。より細分化し、論理的に紐解いていく必要があります。

なんとなくの印象だけで判断しない。「価値の大きさ」と「確率の大きさ」の両方を見て、それらを掛け合わせた全体も見ること。それが意思決定に揺るがない軸を与えてくれます。


まとめ:未来を選ぶことは、未来を期待すること

未来がどうなるかは、わかりません。でも、期待することや予測することはできます。

期待値とは、不確実な未来を測るための視点です。

  • 得られる価値はどれくらいか
  • それが起こる確率はどれくらいか
  • 掛け合わせた結果、期待できるか

この3つの問いを持つことで、私たちは「なんとなくの選択」から「合理的な選択」へと変わっていきます。

「価値が大きい」だけで未来を選択するのは、合理的とは言い切れません。「確率が高い」だけでも同様です。大切なのは、「価値」と「確率」の両方に目を向けることです。

未来はいつだって不確かです。でも、私たちはいつだって未来のために決断します。不確実だからこそ、「もっとも期待できる未来」に託すために、期待値という視点を持ちましょう。

未来を選ぶことは、未来を期待することです。
あなたは、どの未来に期待しますか?


学んだこと

  • 期待値:得られる価値 × 起こる確率で計算される、選択の期待できる度合い
  • 期待値の本質:「価値」と「確率」の両方を見て判断する視点
  • 未来は複数ある:いくつかの「起こりうる未来」を並べ、それぞれの可能性に応じた「重み」を掛け合わせる
  • リスクも同じ構造:リスク = ハザード × 確率で、期待値と対になる概念
  • 実践への第一歩:3つの問いを自分に投げかける習慣を持つ

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