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ジャム実験:選択肢が多いと人は動けなくなる

サマリー:
ジャム実験とは何か、なぜ選択肢が多いと人は動けなくなるのかを解説。コロンビア大学の研究から、ビジネスや日常生活に潜む「選択肢疲れ」のメカニズムを解き明かし、意思決定を前に進める3つの視点を提示します。【滞在時間4分】

キーワード:
ジャム実験、選択肢疲れ、意思決定、決められない、選択の逆説、判断基準、心理学

「選択肢は多いほうがいい」

会議では「とりあえずいろんな案を出してみよう!」と言います。提案する時には「AからEまでご用意しました!」と複数の選択肢を並べます。選択肢が多いほど自由度が高く、満足度も上がる。多くの人がそう信じています。

しかし、心理学の研究は正反対の現実を示しています。2000年、コロンビア大学の社会心理学者シーナ・アイエンガーとマーク・レッパーが行った「ジャム実験」は、人の意思決定に関する根本的な思い込みを見事に覆しました。

選択肢が多すぎると、人は決められなくなります。行動が止まります。そして、満足度さえ下がっていくのです。

この記事では、ジャム実験の内容と、そこから導かれる示唆を見ていきましょう。日々、何かを選び、決めることを繰り返すあなたにこそ、知っておいてほしい視点です。


1. 意思決定と選択肢の罠:なぜ「多いほど良い」は間違いなのか

「選択」は、ビジネスや日常生活のあらゆる場面に存在しています。どの仕事から手を付けるか、誰をチームに入れるか、どれを購入するか、週末はどこへ出掛けるか。「選択」そのものが、私たちの仕事や生活の大半を占めているかもしれません。

だからこそ、私たちはつい思い込んでしまいます。

選択肢は多いほうがいい。

しかし、心理学の研究は正反対の現実を示しています。人は「選ぶ」という行為そのものに、大きなエネルギーを使います。そして、そのエネルギーには限りがあるのです。

私たちの日常を振り返ってみても、心当たりがありませんか。

  • ランチメニューが多すぎて決められない
  • ネット通販であらゆるレビューを読み込んでいるうちに購入を見送る
  • 会議でアイデアが多すぎて、結局どれも決まらない

それは単なる「優柔不断」ではなく、心理的なメカニズムによる現象なのです。

選択肢が増えると何が起こるのか

選択肢が増えると、私たちの脳は次のような負担を強いられます。

  • 情報処理の負荷:各選択肢を比較・評価する必要がある
  • 判断基準の混乱:どの基準で選べばいいのかわからなくなる
  • 後悔への不安:選んだ後に「他の選択肢の方が良かったかも」という後悔が生まれる

この「選択の負担」が大きくなると、人は判断そのものを先送りにし、行動が止まってしまいます。

「選択肢が多い=良いこと」という直感は、私たちが「選択の負担」を過小評価している証拠です。では、この「選択の負担」をどう軽減し、意思決定を前に進めればいいのでしょうか。


2. ジャム実験:選択肢が多すぎると人は動けなくなる

2000年、コロンビア大学の社会心理学者シーナ・アイエンガーとマーク・レッパーが行った有名な実験があります。「ジャム実験」と呼ばれるこの研究は、人の意思決定に関する根本的な思い込みを見事に覆しました。つまり「選択肢が多いほど良い」という考え方を否定したのです。

実験の内容

実験の舞台は、アメリカ・カリフォルニア州のスーパーマーケットです。ある日、店頭にジャムの試食コーナーを設けました。

  • パターンA:24種類のジャムを並べる
  • パターンB:6種類のジャムを並べる

それぞれのパターンについて、試食をした人数、購入した人数について調査をしました。

実験の結果

結果は、非常に興味深いものでした。

24種類のジャムを並べたとき
試食に立ち寄る人の割合は60%と高く、多くの人が興味を示しました。しかし、その中で実際に購入した人はわずか3%だけだったのです。

6種類のジャムを並べたとき
試食に立ち寄る人数は40%とやや減りましたが、購入率は30%に跳ね上がりました。

ジャムの種類試食率購入率結果
24種類60%3%興味は引くが、実際に購入する人はわずか
6種類40%30%立ち寄りはやや少ないが、多くの人が購入

ジャム実験が示したこと

この実験が示したのは、人は選択肢が増えると一見“自由”になったように感じるけれど、実際には決断できなくなり、行動が止まるという現象です。

ジャム実験は、単なるマーケティングだけの話ではありません。私たちの意思決定そのものに深く関わっています。なぜなら、「選択肢を多く提示する」ことが善だと思われがちだからです。

例えば、部下に自由を与えること。顧客に豊富な選択を示すこと。どちらも「良い判断」のように聞こえます。しかし、心理学は明確に指摘しています。

選択肢が多すぎると、人は決められず、満足もしない。

では、この「選択肢過多」の現象は、実際のビジネスや日常生活でどのように表れているのでしょうか。

3. ビジネスと日常に潜む「選択肢疲れ」

「選択肢が多いと決められなくなる」という現象は、私たちの身の回りでも、ごく自然に起こっています。

ビジネスの現場に潜む「選択の停滞」

ビジネスの現場では、選択肢の多さが意思決定を妨げる場面が頻繁に起こります。

  • 会議でアイデアが多すぎて決められない
    新しい取り組みの方向性を話し合うとき、「とにかくアイデアを出そう」と全員が案を挙げます。ホワイトボードには選択肢がずらりと並びます。どれも悪くはない。でも、どれも決め手に欠ける。議論は堂々巡りを始め、最終的には「もう少し考えよう」という言葉で締めくくられる。このとき起きているのは、まさに「選択肢疲れ」です。人は、選択肢が増えるほど「どの基準で選べばいいのか」がわからなくなります。情報を整理するエネルギーが限界を迎え、「判断そのもの」を先送りにしてしまうのです。
  • リーダーが「自由に選んでいいよ」と判断を委ねる
    チームの意思決定で、リーダーが「自由に選んでいいよ」と判断を委ねることがあります。一見、メンバーの自主性を尊重しているように見えます。しかし、選択肢が多すぎる状況で「自由に選べ」と言われると、メンバーは基準がわからず、かえって動けなくなります。アイデアの多さは創造性を高めるように見えて、実際には意思決定を遅らせる構造を生み出す。それが「選択の逆説」です。

日常でも起こる「決められなさ」

同じことは、私たちの日常にも見られます。

  • ネット通販で商品レビューを読み込んでいるうちに購入を見送る
    欲しい商品を探していて、似た商品が何十種類も並んでいる。それぞれのレビューを読み比べているうちに、「どれが本当に良いのか」わからなくなります。結局購入を見送る。選択肢が多いほど「他の選択肢の方が良かったかも」という不安が生まれ、後悔への恐れが行動を止めてしまいます。
  • 今日の服装が選べない
    クローゼットに服がたくさんあるのに、朝「今日は何を着よう」と考えているうちに時間だけが過ぎていく。どれも悪くはないけれど、どれも「バッチリ」と感じられない。結局いつもと同じ組み合わせに落ち着く。選択肢が多すぎると、比較検討に時間とエネルギーを費やしすぎて、結局「選べない」という結果になります。服を選ぶこと自体が負担になってしまうのです。

つまり、選択肢を増やすほど私たちは自由になるどころか、その自由に圧倒され、決断できなくなってしまう。これはビジネスでも日常でも同じ構造なのです。


4. 選択を軽くする:意思決定を前に進める3つの視点

「選択肢が多いと人は動けなくなる」

ジャム実験が示したこの知見は、私たちの意思決定そのものに深く関わっています。

では、選択肢過多の状況で、どうすれば決断を前に進められるのでしょうか。意識すべきことは何でしょうか。それは「選択肢を増やすこと」ではなく、「決めやすい環境」を設計することです。

ここでは、そのための3つの視点を紹介します。

視点1:判断基準を明確にする

意思決定を迷わせる最大の原因は、「基準がないこと」です。選択肢が多いときほど、判断の拠り所が曖昧になり、「何をもって良しとするか」を見失います。

だからこそ、判断の軸を明確にすることが重要です。自分自身に問いかける。チームで話し合う。基準を言語化する。

たとえば、

  • 「コスト優先か、品質優先か」
  • 「短期的な成果か、長期的な投資か」
  • 「スピードか、完成度か」

基準を明確にすることで、迷いが減り、判断できるようになります。もしあなたがチームをリードする立場なら、「何を軸に考えるか」を示すことが、メンバーの意思決定を支える力になります。

視点2:選択肢を「増やす」のではなく「絞る」

選択肢が多いほど、議論は拡散し、決断は遠のきます。大切なのは、実行可能で本質的な選択肢だけを残すことです。

たとえば、アイデアを出す初期段階では自由に案を挙げて構いません。しかし、最終的には選択肢を絞り込むことが重要です。比較・評価がしやすい「3〜5つ程度」に絞り込むのが現実的です。

選択肢を整理することで、「考える」モードから「決める」モードに移行します。あなたは今、選択肢を増やしていませんか?それとも、絞り込めていますか?

視点3:実行できる選択をする

意思決定の本質は「選ぶこと」ではなく、「動くこと」です。どれほど理論的に正しい選択でも、現実に動けなければ意味がありません。

選択が複雑になればなるほど、比較や評価にエネルギーが費やされます。その結果、行動が遅延してしまう可能性があります。選んだことに満足して終わらず、実際に動ける選択を選ぶこと。それが、成果とモチベーションを維持する鍵の一つです。

価値のある選択とは、実行のしやすさにあります。あなたが今日下す決断は、すぐに動けるものでしょうか?

「選択を軽くする」ことは、意思決定の質を下げることではありません。むしろ、前に進む力を取り戻すための設計です。


まとめ:選択とは、決断のための設計である

人は「自由に選べる」ことを好みます。しかし実際には、選択肢が増えるほど迷い、行動が遅れます。満足度は下がり、後悔さえ残ります。

「ジャム実験」が示したのは、人の意思決定が「情報量の多さ」ではなく、「選びやすさ」によって支えられているという事実です。

選択肢の数よりも、基準の明確さ。自由の広さよりも、判断のしやすさ。私たちが求めているのは、無限の可能性ではなく、納得して動ける選択です。

だからこそ、選びやすくする環境を整える必要があります。

選択肢を増やすのではなく、絞っていく。その発想の転換が、今日からの意思決定を変えていきます。

あなたは今、何を選ぼうとしていますか?あるいは、何を諦めようとしていますか?

限られた中での自由が、本当の自由なのかもしれません。


学んだこと

  • ジャム実験:選択肢が多すぎると、人は決められなくなり、行動が止まる
  • 選択肢疲れ:選択肢が増えるほど、情報処理の負荷が高まり、判断が先送りされる
  • 選択の逆説:選択肢が多いほど自由になるように見えて、実際には決断できなくなる
  • 判断基準の重要性:選択肢が多いときほど、判断の基準を明確にすることが必要
  • 選択肢の絞り込み:実行可能で本質的な選択肢だけを残すことで、意思決定が前に進む
  • 実践への第一歩:3つの視点(基準設定、絞り込み、実行可能性)で選択を軽くする

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