サマリー
ウェイソン選択課題とは何か、なぜ多くの人が正解を選べないのかを解説。対偶という論理学的視点から、確証バイアスの本質を掘り下げます。正しさを確かめるために、何を見て、何を見落としているのか。その理由を考えるための視点を提示します。
この記事でわかること
- ウェイソン選択課題の内容と、なぜ多くの人が間違えるのか
- 対偶という論理学的視点から見る検証の本質
- 「選んだ理由」は説明できても「選ばなかった理由」は説明できない理由
- 日常に潜む確証バイアスの具体例
- ルールや主張を確かめるための視点
「カードの片面が母音なら、その裏面は偶数である」
このルールが正しいかどうかを確かめるために、あなたはどのカードをめくるでしょうか。
ウェイソン選択課題として知られるこの問題は、私たちの思考の癖をあぶり出すための有名な思考実験です。多くの人は、なぜそのカードをめくるのかは説明できます。しかし、なぜそのカードだけを選び、他を選ばなかったのかまでは説明できない。
この差は、私たちの思考のどこから生まれるのでしょうか。
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1. ウェイソン選択課題:4枚のカードから選ぶ
ウェイソン選択課題は、1960年代に心理学者ピーター・ウェイソンによって提案された思考実験です。この課題は、人がルールを検証するとき、どのような傾向を示すかを調べるために作られました。
課題の設定
机の上に、4枚のカードが置かれています。それぞれのカードには、片面に文字、もう片面に数字が書かれていますが、現在見えているのは、次の4枚だけです。
A, D, 4, 7
ここで、次のルールが与えられます。
「カードの片面が母音なら、その裏面は偶数である」
このルールが正しいかどうかを確かめるために、どのカードをめくればよいでしょうか。
重要なのは、すべてのカードをめくる必要はないという点です。求められているのは、このルールが誤っている可能性を排除できる、最小限のカードを選ぶことです。
たとえば、あるカードをめくった結果、ルールに反する組み合わせが見つかれば、その時点でルールは誤りだと判断できます。逆に、ルールに反しない結果が得られたとしても、それだけでルールが正しいと断定できるとは限りません。
この課題は、「正しさを証明する」ことではなく、「誤りを見つける」ことを求めている点に特徴があります。
多くの人が選ぶ間違った答え
まず、正解とされるカードの組み合わせは次の2枚です。
A, 7
一方で、実験では多くの人が次のカードを選びました。
A, 4
Aをめくることで、ルールに違反していないかを確認することができます。
そして、4を裏返して、もし母音が書いてあるなら、ルールを支持する証拠が得られるからです。
興味深いのは、Aと4を選ぶ理由については、多くの人が比較的すんなりと説明できる点です。
しかし、なぜ7のカードをめくる必要があるのか、あるいは、なぜDのカードをめくらなくてよいのかを、明確に説明できる人は多くありません。
ここに、この課題の面白さがあります。では、私たちは何を見落としているのでしょうか。
flowchart TD
Start([ルールを検証する]) --> Card1{Aカード<br/>母音が見える}
Card1 -->|裏が奇数| RuleBroken1[ルールに違反]
Card1 -->|裏が偶数| Continue1[ルールに合致]
Start --> Card2{7カード<br/>奇数が見える}
Card2 -->|裏が母音| RuleBroken2[ルールに違反]
Card2 -->|裏が子音| Continue2[ルールに合致]
Start --> Card3{4カード<br/>偶数が見える}
Card3 --> NoCheck3[裏が何でも<br/>ルールを破らない]
Start --> Card4{Dカード<br/>子音が見える}
Card4 --> NoCheck4[裏が何でも<br/>ルールを破らない]
style RuleBroken1 fill:#ffcccc
style RuleBroken2 fill:#ffcccc
style NoCheck3 fill:#e6ffe6
style NoCheck4 fill:#e6ffe6
style Card1 fill:#fff4e1
style Card2 fill:#fff4e12. 対偶という視点:ルールを破る可能性を見つける
先ほどのルールは、
「カードの片面が母音なら、その裏面は偶数である」
という条件文でした。論理学的には、これは次の形をしています。
- P:カードの片面が母音である
- Q:カードの裏面が偶数である
つまり、「PならばQ」という命題です。
このとき、この命題と同じ意味を持つ別の表現が存在します。それが、対偶と呼ばれるものです。
対偶は、「Qでないならば、Pではない」。
すなわち、
「カードの片面が奇数なら、その裏面は子音である」
という形になります。
この二つの文は、表現は異なっていますが、論理的には完全に同値です。
ここまでを踏まえると、ウェイソン選択課題で何を確かめるべきかが見えてきます。
ルールが誤っているのは、どのような場合でしょうか。
それは、
- 母音なのに奇数である
- 奇数なのに母音である
という組み合わせが見つかったときです。
前者は、本来のルール(PならばQ)に反します。後者は、対偶(QでないならばPではない)に反します。
| 偶数 | 奇数 | |
|---|---|---|
| 母音 | ✅ ルールに合致 | ❌ ルールに違反 |
| 子音 | ➖ ルールと無関係 | ✅ ルールに合致 |
この視点でカードを見ると、正解とされる選択が意味を持ち始めます。
- Aのカードをめくるのは、裏が奇数でないかを確かめるためです。
- 7のカードをめくるのは、裏が母音でないことを確かめるためです。
一方で、
- 4のカードは、裏が何であってもルールを破ることはありません。
- Dのカードも、裏が何であってもルールを破ることはありません。
つまり、Aと7だけが、このルールを否定しうるカードなのです。
多くの人が7のカードを選べなかったのは、「なぜAを選んだのか」は説明できても、「なぜ7を選ばなかったのか」までは考えなかったからではないでしょうか。
自分の選択の理由を突き詰めなかった。その問いを省略してしまった。
ここに、この課題の本質がありそうです。
3. 「選んだ理由」は説明できても「選ばなかった理由」は説明できない
「なぜAを選んだか」「なぜ4を選んだか」は説明できるのに、「なぜ7を選ばなかったか」「なぜDを選ばなかったか」は説明できない。
これは、私たちが自分の選択に対して、どこまで問いを追求しているかを示しています。
目の前にあるカードを選ぶとき、「なぜこれを選ぶのか」という問いには答えられる。しかし、「なぜこれを選ばないのか」という逆向きの問いまでは考えていない。
ここで、もう少し身近な例を考えてみましょう。
例1:薬の効果を確かめる
たとえば、次のような主張があったとします。
「この薬を飲むと、症状は改善する」
この主張を確かめるとき、多くの人は、
- 薬を飲んで、症状が改善した例
に注目します。これは直感的で分かりやすい確認方法です。
ここで対偶を考えてみましょう。
「症状が改善していないなら、薬を飲んでいない」
この視点に立つと、本当に確認すべき手順は、次の二種類になります。
- 薬を飲んだ人の中で、症状が改善していない人はいるか(主張に反している)
- 症状が改善していない人の中で、薬を飲んだ人はいるか(主張に反している)
一方で、次の確認対象は、この主張の正誤を判断するための決定的な証拠にはなりません。
- 症状が改善した人
- 薬を飲まなかった人
| 症状が改善した | 症状が改善していない | |
|---|---|---|
| 薬を飲んだ | ✅ 主張に合致 | ❌ 主張に違反 |
| 薬を飲まなかった | ➖ 主張と無関係 | ✅ 主張に合致 |
それにもかかわらず、私たちは「改善した例」を集めることには熱心でも、「改善しなかった例」には注意を払わない傾向があります。
例2:規則が守られているかどうかを確かめる
もし、居酒屋で酒類を提供する立場であるならば、次の規則を徹底しなければなりません。
「20歳未満は、飲酒をしてはいけない」
この規則が守られているかどうかを確かめるには、誰を確認すればよいでしょうか。
この文脈では、まず「20歳未満の人」に注目してしまいます。20歳未満の人に対して、飲酒をしているかどうかを確認する方法が、一番直接的だからです。
しかし、その方法であれば、まずはその人が20歳未満であるかどうかを確認する必要があります。容易に年齢が判別できないなら、結局のところ、全員の確認をしなければならなくなってしまいます。
では、対偶はどうでしょうか。
「飲酒しても良いのは、20歳以上である」
つまり、飲酒している人に対してだけ、年齢確認をすれば良いことになります。なぜなら、飲酒していない人が規則に違反しているはずはないからです。
| 飲酒している | 飲酒していない | |
|---|---|---|
| 20歳未満 | ❌ 規則に違反 | ✅ 規則に合致 |
| 20歳以上 | ✅ 規則に合致 | ➖ 規則と無関係 |
問いを一歩深く追求することで、より効率的な方法が見えてくるのです。
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4. 確証バイアスの本質:問いを省略してしまう思考の姿勢
ここまで見てきたように、ウェイソン選択課題が難しい理由は、論理そのものが複雑だからではありません。問題は、私たちが条件文に出会ったとき、どの方向から確かめようとするかにあるのです。
多くの場合、私たちは「条件を満たしていそうなもの」に目を向けます。
- 母音なら偶数か
- 薬を飲んだなら症状が改善したか
- 20歳未満なら飲酒をしていないか
こうした確認は直感的で、もっともらしく感じられます。しかし、それだけではルールが誤っているかどうかは分かりません。
本当に重要なのは、そのルールを否定しうるケースは何かを考えることです。
対偶とは、ルールや条件を「破れるとしたら、どこから破れるのか」という視点で言い換えたものにすぎません。
でも、なかなかそれに気付けない。なぜなら、自分の選択に対して「なぜこれを確かめるのか」という問いには答えても、「なぜこれを確かめないのか」という逆向きの問いまでは追求しないからです。
確証バイアスとは、都合のよい情報を集める癖というよりも、この問いを省略してしまう思考の姿勢なのかもしれません。
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問いを省略しないための2つの視点
では、私たちはどうすれば、この「問いの省略」を避けられるでしょうか。
日常の判断で使える視点は、次の2つです。
①対偶は何かを考える
何かのルールや主張に出会ったとき、まず「対偶は何か」を考えてみる。
「PならばQ」という主張があれば、「Qでないなら、Pではない」と言い換えてみる。
- 「この方法が効果的なら、結果が出る」→「結果が出ていないなら、この方法は効果的ではない」
- 「良いリーダーなら、メンバーから信頼される」→「メンバーから信頼されていないなら、良いリーダーではない」
- 「優れた戦略なら、市場シェアが伸びる」→「市場シェアが伸びていないなら、優れた戦略ではない」
対偶を考えることは、「この主張が崩れるとしたら、どこから崩れるか」を見つける作業です。肯定だけでなく、否定の可能性にも目を向ける。それが判断の精度を高める第一歩になります。
②選ばなかった理由を考える
何かを選んだとき、「なぜこれを選んだのか」だけでなく、「なぜ他を選ばなかったのか」まで考えてみる。
- 「なぜAのカードをめくるのか?」だけでなく、「なぜ7のカードをめくらないのか?」
- 「なぜこのデータを見るのか?」だけでなく、「なぜ他のデータを見ないのか?」
- 「なぜこの事例を参考にするのか?」だけでなく、「なぜ他の事例を参考にしないのか?」
選んだ理由は説明できても、選ばなかった理由まで説明できるでしょうか。
この問いを自分に投げかけることで、自分の判断の偏りが見えてきます。肯定する理由だけでなく、反証の可能性にも目を向ける習慣が確証バイアスを弱めていきます。
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まとめ:問いを省略しない思考へ
ウェイソン選択課題で重要なのは、正解のカードを選べたかどうかではありません。
なぜ、そのカードを選んだのか。なぜ、他のカードを選ばなかったのか。
この「なぜ?」を突き詰められるかどうかが、私たちの思考を分けます。
確証バイアスとは、都合のよい情報だけを集める癖ではありません。それは、自分の判断に対して「なぜそう考えたのか」と問うことをやめてしまう状態です。
奇数カードをめくれなかった理由は、論理を知らなかったからではありません。「なぜ7を選ばないのか」という問いを、自分に投げかけなかっただけなのです。
対偶という視点は、特別な知識ではありません。選ばなかった理由を言葉にすることも、難しいことではありません。ただ、その問いを自分に投げかけるかどうかです。
次に何かの主張やルールに出会ったとき、こう問いかけてみてください。
「対偶は何か?崩れるとしたら、どこから崩れるか?」
「選んだ理由だけでなく、選ばなかった理由まで説明できるか?」
肯定する理由を10個並べるよりも、反証の可能性を1つ見つけることのほうが、判断の質を高めてくれます。
問いを省略せず、自分の判断の理由を言葉にできる思考へ。その小さな一歩が、あなたの判断を変えていくかもしれません。
学んだこと
- ウェイソン選択課題:ルールを検証するときに、多くの人が反証すべきケースを見落とす
- 対偶の視点:条件文を「破れるとしたら、どこから破れるのか」という視点で言い換える
- 問いの非対称性:「なぜ選んだか」は説明できても「なぜ選ばなかったか」までは考えていない
- 確証バイアスの本質:問いを省略してしまう思考の姿勢
- 実践への2つの視点:①対偶は何かを考える ②選ばなかった理由を考える

